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【書評】「お父さん、フランス外人部隊に入隊します」【大学中退してフランス軍へ】

 

ある人にとっては現状から抜け出す手段が大学を中退して起業することであり、また別の人にとっては脱サラすることだったり、別の学校に再進学・編入することだったりします。

[目次]

行方不明になった大学生は志願兵に

別の世界に行きたいと考えた時に選ぶ手段は人それぞれですが、この本の主人公の青年は誰にも相談せず大学を中退し、フランスに渡り、外人部隊に入隊するという道を選びました。

親子の葛藤を描いたノンフィクションの作品。

異国の地で極限まで己を鍛え上げることを望んだ青年の話です。

インタビューと往復書簡の形式です。

卒業旅行に向かった自慢の息子が、そのまま姿を消した。

大学卒業を目前に就職先も内定し、すべては順調のはずだった。

息子の何をわかっていたのか。

煩悶する父に、フランスから届いたのは、たった三行のエアメール。

すべては、そこからはじまった。

フランス外人部隊ー。

自らの意思で兵士になった息子は、「小市民」と決めつけたつもりの父への思いを捨て切れなかった。

父はそんな息子を、「刹那主義」者だと思いながら、ただ、無事だけを願った。

父と子、それぞれの思いは、手紙に託され、つながっていった。

「お父さん、フランス外人部隊に入隊します」駒村吉重 廣済堂文庫より

フランス外人部隊とは

以下はウィキペディアからの引用です。

 フランス外人部隊は、フランス陸軍所属の外国人の志願兵で構成される正規部隊である。

外人部隊における新兵訓練は約4ヶ月間で、この間にフランス語の習得を含めた戦闘訓練を第4外人連隊において受ける。訓練内容は非常に厳しく、軍隊経験者でも無事に訓練を終えることができるのはごく少数である。部隊配属後も規律や訓練の厳しさに堪えかねて脱走する新兵が絶えない。

よくある誤解らしいのですが、「あくまでフランスの正規軍の一種であり、傭兵ではない」とのこと。

訓練が過酷を極めるだけでなく、採用自体も狭き門のようです。 

 なぜ大学を中退して外人部隊に?

 1995年、愛媛大学の4年生だった森本雄一郎は地元のスーパーの内定を得て、卒業も確定し、大学の卒業旅行にアメリカに向かいました。

というのは家族に向けた大嘘です。

実際は内定などなく、それどころかロクに授業に出席していなかったので卒業に必要な単位も全然足りていませんでした。

成績は無残なものでした。フランス語の授業を除いては。

そして向かった先はアメリカではなく、パリです。

外人部隊に志願するために。

大学生活のほとんどの時間を入隊の準備のために使い、体力錬成とフランス語の強化に励んできた雄一郎は無事に志願兵になることができました。

その後強烈な新兵訓練を終え、志願兵から外人部隊兵へとなり、さらに5年間の任期の間に伍長に昇格しています。

この本の中で著書の駒村さんは幾度となく雄一郎に「なぜ、外人部隊に入隊しようと決めたのか」を問うていますが、明確な答えは得られていません。

まとめと感想

 靴下が血に染まるまで走らされる。

足の皮がずる剥けになるまで行軍する。

疲れすぎて幻覚を見る。

連帯責任でシバかれまくる。

昇格訓練や射撃訓練、コマンド・マルティニクと呼ばれる格闘訓練....

など外人部隊兵の軍隊生活の描写が詳しく書かれていますので、ミリタリーな世界が好きな方はかなり楽しめる内容だと思います。

 ただ、この本の本質は「親子の葛藤」にあります。

結局、雄一郎は外人部隊入隊の理由を家族にも明かしていません。

強くなりたかったのかもしれないし、軍人の世界にあこがれたのかもしれないし、外国で働いてみたかったのかもしれないし、異世界が見たかったのかもしれません。

本当のところは本人にしか分かりません。本人にもはっきりと言葉にすることは難しいのかもしれません。

取材を重ねた筆者は、厳格な父と、濃厚な地縁と血縁の支配する田舎からは、一人暮らしや就職くらいのことでは彼にとって断ち切れるものではなかったのだろう..とあとがきでまとめています。

私も形は違いますが、地元を離れて、もう地元で暮らすことはないだろうと思いながら働いているので雄一郎の生い立ちや地元について語られている文章には突き刺さってくるものがありました。

振り払っても振り払ってもくっついてくる地元の影。

ほんのわずかなありがたみを感じることがなくもありませんが、うっとおしくてたまらないです。でもそのおかげで自立できてる気もします。

ミリタリーの世界が好きな方、進路を選択する必要に迫られている方、骨太なノンフィクションの本が好きな方は是非ご一読されてはいかがでしょう。