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【書評】傷だらけの店長 街の本屋24時【好きなことを仕事にすると.....?】

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神奈川県に自称東京な夢の国がありますよね?どことは言いませんが。

私が大学生だった頃、同級生たちの間ではその某ねずみの王国が好きな人はそこでアルバイトをしてはいけない、就職なんてもってのほかと囁かれていました。

純粋に客として楽しむことができなくなるから、知りたくなかったことを知ってしまうから、と。

[目次]

好きなことを仕事にするデメリットとメリット

仕事にしてしまうと消費者側にいたときには見えなかったネガティブな面と向き合わなくてはいけなくなります。

好きなことの後ろ暗いところを見るのは嫌ですよね。

一度見てしまったことや知ってしまった裏側についてはなかったことにすることはできません。リセットできないので、以前と同じように好きなことを楽しめなくなってしまう可能性があります。

また、好きなことだからこそ妥協できないこだわりがあります。

でも仕事にしてしまったら個人的なこだわりよりも事業としての継続、利潤の追求が優先されます。利益を出して始めて仕事として成立します。

こだわりを捨てる、妥協する、折り合いをつけることが必要とされる場面がどこかで出てきます。

本が大好きで本屋になったのに

この本の店長さんは本が大好きで本屋さんになりました。

大好きなことを仕事にしてしまった人の苦悩と奮闘記です。

 まずはざくっとあらすじを。

本屋の日常は過酷な闘いの連続だ。

繰り返される万引き、達成不可能なノルマ、限界を超えた作業量。

何より給料が安く、満足に休みも取れない。

それでも著者は、心血を注いで棚を作り、理想の 書店を目指して働き続けた。

ところが近くに競合大型店が出店!勤務する店舗はたちまち赤字に転落した。

このまま書店員を続けていけるのか。

働く大人の共感を呼ぶリアルな苦悩と葛藤の記録。

「傷だらけの店長 街の本屋24時」伊達雅彦著 新潮文庫 あとがきより

先に書いてしまうと、著者は本屋を退職します。本が大好きなのに。

小売業の現場責任者の苦悩が嫌になるほど克明に書かれています。 

荒れる現場と頼りにならない本社

筆者は学生時代から書店でアルバイトを始め、本が好きで書店員になりました。

根っからの本好きです。休日にも他店の見学に行ったり、気になって自分の店に出てきたりしてしまいます。

しかしながら店長としての業務は試練の連続です。これでもかと続きます。

筆者の本への熱意を試すかの様です。

いつもギリギリの人数で店を回しているので、閉店後でないと自分の仕事はできません。

定時ダッシュならぬ終電ダッシュの繰り返し。だから家族との時間も取れない。

当然のようにサービス残業もたくさんします。

古参のアルバイトは社員を舐め腐りやがって言うことを聞きません。やむなくクビにします。

現場のスタッフからは人員増強を要望され、本社からは人件費の削減や売り上げノルマの達成を命じられます。

そもそも時給が低すぎて(ほとんど県の最低賃金だったようです)バイトの応募がありません。

そしてベテランのアルバイトには将来が不安だからと転職されてしまいます。

競合店の出店

そして、ついに退職の引き金となる出来事が起こります。

著者の店の近くの大型の競合店ができてしまいます。自店の売り上げが落ちるのは目に見えていました。

 著者もこれに手をこまねいていたわけではありません。

本社に対抗策を進言し、実行の許可を求めます。

しかし、結果的にはポイントサービスも、改装工事も、会社からの許可が下りなかった。

長い時間をかけそれらについて本部で話し合いが行われたが、最終的に、やはり資金面で難しい、という結論を経営者が出した。

「金をかけずに売上を伸ばし、かつ、競合店に対抗する手立てを考えなさい」経営者は言った。

本文p112より

そんなもん無理に決まってんだろうが!

馬鹿なの?と言いたくなりますね。

お金は出さないけど数字は上げろ、ライバル店にも勝てってことですからね。無茶苦茶です。まあ、偉い人には偉い人の考えがあっての最終判断なんでしょうが。

筆者はその後、他の幹部の協力のもと棚の増設工事と床の張替えだけはなんとか認めてもらったようです。 

しかし、競合店のオープン後、筆者の店は赤字に転落、経営会議の末に閉店撤退が決定します。

著者は書店員を辞めることを決めます。

 感想

 私は小売業の世界で働いた経験はありませんが、読んでいて「あーあるあるこういうこと」と共感できるところはたくさんありました。

無理難題を吹っかけてくる本社ややりたい放題なパート・アルバイト。

厄介な仕事は全部現場の社員にブン投げられてくる。

日本のサービス業はこんなボロボロになりながら働いている店長さんたちのおかげで成り立っているんだと思います。

こんな風に書くとこの本が「小売業残酷物語」のような印象になりそうですが、この本はそこで終わっていません。

課題だらけの書店業界でも、それでも本や書店の可能性に希望を持っている書店員の方たちがいます。

リアルの書店にしかできないことはきっとあるはず。アマゾンには果たせない役割があるはず。

好きなことを仕事にすることの苦悩と書店の未来へのヒントを見ることができました。

好きなことを仕事にしてみたい!と考えている人は一読されてはいかがでしょう?

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